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今次学習指導要領にかかる三つの要素
今次改訂の指導要領の概要をリアリティをもって読み解くために
  認識しておきたい三つの要素
 1 学校が直面している課題(1) 小規模校化する学校で学校文化や教育実践を継承できるのか
  小規模校化の進展は各校の教職員世代間のバランスを崩し、学校経営モデルを崩壊させている。蓄積されてきた学校文化や教育実践が継承されにくい状況を生み出すという危機に直面しています。このような状況の中で、今次学習指導要領は、学校、家庭、地域が共有して、活用できる「学びの地図」となるよう抜本的な改善に踏み出しましたが、進展する小規模校化、それに伴う学校や地域の諸問題を踏まえて、改訂指導要領は策定されています。
 2 学校が直面している課題(2)
 学校・地域の統廃合の前に、「コミュニティスクール」「チーム学校」は実現可能か。
 
    今次学習指導要領改訂の過程では、同時に二つの中教審で審議が行われ、平成27年12月21日には答申もなされました。一つは「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後のあり方と今後の推進方策について」であり、もう一つは「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」です。それらには少子高齢化の進行に伴って必然的に起こる学校や地域の統廃合に伴う、これからの学校と地域のあり方が提言されています。二つの中教審答申は、すべての学校をコミュニティ・スクール(学校運営協議会を母体にした学校)にし、学校を「チーム学校」にすることを提言しています。
 Uchidaは「急速な少子高齢化がもたらす学校の小規模校化、地域衰退、学校統廃合、地域再編、地域創生という学校と地域社会の変化、教育課題の複雑化・多様化への対応、そして教員の長時間労働解消と同時に学校の教育機能の拡充、それらを一挙に解決する策として学校運営協議会がありチーム学校があると映るのですが、どうでしょうか。」と投げかけました。
 それは学校運営協議会を通して素人が学校教育とその経営を担うという課題、チーム学校で専門的スタッフを拡充するといっても、その人材を確保できるのかという課題、さらにそれに財政上の課題もありますよという問題提起です。 
 それらの諸課題を含みながらも、今次指導要領では、学校教育そのものと言ってよい教育課程を、地域と共有し、保護者や地域の人々を巻き込み教育活動を充実させる「社会に開かれた教育課程」の実現をめざして、「学びの地図」としての役割が果たせるよう、その枠組みを6点にわたって改善したのです。
 激変する地域社会を背景に学校教育が果たすべきことは何かを視点に改定指導要領は読むべきです。
3  学校教育の目的・目標、確かな理念を =義務教育の構造改革とPISA=
   学校では今や当然のように学校教育目標のもとにグランドデザインを描き、学校評価を基に、それをフィードバックして、目標や教育活動の見直し改善へとつなげています。いわゆるPDCAサイクルですが、それが学校に定着したのは平成17年(2005年)以降です。平成17年10月には義務教育の構造改革が示され、「教育の質の保証」が謳われて、今日に至っています。その時策定されたのが学校評価ガイドラインで、その中に全国学力・学習状況調査結果が組み込まれた地方・学校の評価システムが確立したのです。また、InputとOutcomeは国がProcessは地方・学校がという国と地方・学校のサンドイッチ型の構造も完成し、PISAを成果指標とする国の教育政策が以後継続されることになるのです。
 地方や学校が全国学学調査結果を成果指標の一つとしてPDCAを回すとき、競争原理が過剰に働いて、それ自体が目的化してしまう危険性があります。それを私どもは目の当たりにしてきました。
 今次学習指導要領における学力構造はOECD Education2030に示されたものと全く同じです。国は、義務教育の激しい国際競争の中で、我が国のGPS(位置、レベル)を常に意識して臨んでいます。今次指導要領はPISA調査対応型。そのことを認識して指導要領を読んでみる必要があります。
 成果指標をもとにPDCAを回す手法はNPM(新公共経営)の手法ですから、競争原理を是としています。
 しかしながら、OECDのPISA調査の本来の最終目標は社会や子供を「well-being」にするところにあります。国際社会の中で我が国の教育をどう描くのか。大切なのは学校教育の目的・目標であり、教育に対する確かな理念です。そういう意味で平成17年(2005年)の構造改革をもう一度振り返って、その是非を問いながら新指導要領を読み解くことが重要です。